2018年5月23日水曜日

【書評】サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 その2

本記事では、「サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論」のゾーンディフェンス理論の内容についてちょっと書きます。

書評その1では、この本の体裁について書きました。)

読書メーターのページの評価で、ミズノさんという方が「筆者が松田浩の考えを十分に理解できていない、または聞きだせていないのではないかという疑問がかなり湧いた。」とコメントしていました。

松田さんも本書の内容を確認したとは思いますが…、頭の片隅に留めておくべきでしょう。




評価、改良の余地あり


本書のコアとも言うべきは、第3章と付録の1と2です。

ただ、ゾーンディフェンス理論のコアとして書ける項目はまだあるように思いました。

第3章の内容は、

  • 4-4-2の根拠、
  • 各層の役割、
  • チャンネルサイド(ペナルティエリア横のサイド領域)への対応例、
  • 個人能力の重要性、

となっています。

これでゾーンディフェンスを記述するのに十分な情報かと言われると、形式的に不足しているように思います。

自然現象の研究について形式的なキーワードを挙げるなら、定量化、時間変化、空間変化です。

4-4-2のゾーンディフェンスに当てはめた場合、定量化は具体的な数値が欲しいという事、時間変化は相手の攻撃に対しての対応が知りたいという事、空間変化は領域ごとの特徴が知りたいという事です。

攻撃に対しての対応は、チャンネルサイドへの対応例が書かれていますが、この攻撃だけへの対応では十分ではないでしょう。


私の知りたい事の一つは、ゾーンディフェンス時の選手間距離です(定量化)。

第3章の図の31から34では、中盤でFWからDFまでの距離を25mと想定している記述があるのですが、この25mが本文に言及がありません。(なぜここに書かない?)

第4章のP140には25mと書いてありますし、検索すると、鈴木さんによるインタビューの中で松田さんが25mについて言及しています。(サッカーを読む!Jマガ)

後者のインタビューを読むと、松田さんは浮き玉のパスに対応するためにはこの程度の距離が良いと考えているようです。

サイド方向の選手間距離はどの程度なんでしょうね?


また本書では、ゾーンディフェンスをどこで行うのかは明示していません。(空間変化)

自陣ゴール前、中盤に加えて、完全な相手陣内でもゾーンディフェンスを敷く事はできるわけですが、松田さんの感覚的にゾーンディフェンスを敷く事が妥当な領域(ゴール方向)を知りたいです。

DFがセンターラインを越えないのが当たり前と言ってしまえばそこまでですが、「どういう相手に対してどこで」ゾーンディフェンスを敷くべきでしょうか?

ゴール前での選手間距離は、中盤と同じで良いのでしょうか?


さらに、ゴール前でのゾーンディフェンスと、数年前からぽっと現れた「守備ブロック」という言葉、これらの関係についても(決定的でなくとも良いので)考えを聞きたいです。


第4章のインタビューを読むと、用語の説明や、ゾーンディフェンスを展開した際の注意点・失敗例などまとめるべき事は多いと思うのですが、個々の事例のインタビュー形式のままのため、自分なりに理論立てる事になります。

読者の皆さんの多くは4-4-2の専門家ではない訳で、そんな自分自身で作ったガバガバ理論(こうすればいいんだ!)は、はたして読者の求めるものでしょうか?



図の縮尺


第3章の内容も重要なのですが、それに劣らず重要なのがゾーンディフェンスを説明している図です。

本書では、図1をはじめとして、フィールド全体での選手配置の図示が多くありますが、これは正しい縮尺ではありません。

図示というのは「見やすい事」が再優先事項で、紙のサイズの都合もあると思いますが、図のいくつかを見ると、しばしば「守りやすい」印象を受けませんか?フィールドが狭く感じませんか?

この原因は、縦横の縮尺の違いと選手を表すシンボルの大きさによります。


Jリーグの各スタジアムのフィールドサイズは、国際大会の規格に合わせ、105mx68m(に近い値)となっています。

サイド方向を1としてこれらの長さの比をとると、おおよそ 1.54 : 1 となります。

いっぽう、例えば図1に定規をあてて長さを計ってみると、12.7cmx10.2cm です。

同じようにサイド方向を1として比をとると、おおよそ 1.25 : 1 です。

つまり、図上のフィールドサイズは、実際のサイズに比べてゴール方向に短いと言えます。

図を見ると、確かにセンターサークルからペナルティアークまでずいぶん狭く感じます。

(さらにペナルティエリアの幅を計ってみると、実際のものより若干広いようです。)

選手を示すシンボルの大きさは、実際の選手達よりも一回り以上大きく描かれています。

このシンボルの円の直径は、紙上で0.4cmです。

これをサイド方向の長さで換算すると直径2.67mとなり、ゴール方向なら直径3.3mとなります。(直径3mの円はかなり広い)

選手を表すシンボルにはさらに曲線もついており、紙面上の選手達はずいぶん大きい印象を与えます。

これも守りやすいという印象を助長しているのでしょう。

しかし、実際の選手達はそこまで大きくありません。

本書の図から得られるイメージそのままに、実際のフィールドでゾーンディフェンスを実践しようとすると、けっこうな違いを感じる事になるでしょう。



初めての書評でキツく書いた自覚はありますが、情報伝達にはそれなりの形式が必要です。

商業ベースのため色々な制限があった事は理解しますし、一般向けと指導者向けで詳細さの程度が違うのも理解します。

ただ「教科書」を名乗るなら、もっと内容を良くして欲しかったと思います。



にほんブログ村 サッカーブログへ
クリックして頂けると励みになりますm(_ _)m

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿

サッカーにおけるボロノイ図使用の制限、ボロノイ図とは?

本記事の主張は、「 サッカーではボロノイ図を無制限に信頼しないでね 」、です。 特に私が危惧しているのは、盲目的な信頼によって、ボロノイ図が選手批判に使用される事です。 事実として、選手たちが動いてない時(動きが悪い時)ほど、ボロノイ図は各人がカバーできる領域に近くなり...