本記事の主張は、「サッカーではボロノイ図を無制限に信頼しないでね」、です。
特に私が危惧しているのは、盲目的な信頼によって、ボロノイ図が選手批判に使用される事です。
事実として、選手たちが動いてない時(動きが悪い時)ほど、ボロノイ図は各人がカバーできる領域に近くなります。
一方、選手たちが走り回っていると、ボロノイ図は各人がカバーできる領域からかけ離れます。
私が思うに、ボロノイ図は、動き回る事で面白くなるサッカーとは相性がよくありません。
ボロノイ図がサッカーの試合分析に使われる理由は、「簡単な計算でそれらしい領域が求められる事」です。
この記事では、ボロノイ図を説明します。
次の記事では、簡単な数値計算によって、選手たちが動いている時にボロノイ図を使う事の困難を示します。
次の記事、サッカーにおけるボロノイ図使用の制限 簡単な数値計算
本記事の内容は次の通り。
- 個人がカバーできる領域を表していそうなボロノイ図
- 疑問に思う場面
- 試合中にボロノイ図が使えそうな場面
- ボロノイ図が使えそうな事例
個人がカバーできる領域を表していそうなボロノイ図
pythonのモジュールでお手軽に作成したボロノイ図。破線は無限遠方に向かう線との事。 |
ボロノイ図(Wikipedia\)
Wikipedia には小難しい記述がありますが、ここで必要な理解は、「ボロノイ図が、点群の位置から計算される二等分線を境界線としている」、という事です。
サッカーの試合の解析におけるボロノイ図の使い方は、とても多様なのかもしれません。(試合を制する“スペースの支配”を「幾何学」によって再解釈する, footballista)
しかし、試合分析におけるボロノイ図への共通認識は、「ボロノイ図で示される領域を、他の選手に邪魔されずに個人がカバーできる領域とみなす事」です。
この認識が生まれた段階を次のように推測します。
- 「ボロノイ図の境界線が二等分線」 =>
- 「ボロノイ図の境界線は、隣り合う点同士からの距離が等しい」 =>
- 「ボロノイ図で示された領域は、(相手に邪魔されず)個人がカバーできる領域」
一見して正しいように思いますが、この認識には、次の2点の仮定が含まれています。
- 各選手が静止している。
- 選手たちの走力(加速能力)は同じ。
この2点の仮定によって、ボロノイ図の境界線は、「静止状態の選手が、他の選手たちに邪魔されずにカバーできる領域の区分」とみなされます。
「選手たちの同一の走力」は、単純化のためには許容できる仮定です。
一方、今回の記事での主張にもなりますが、『この「各人が静止している」という仮定は、選手たちが動き回るサッカーの本質とは大きく異なり』ます。
受け入れがたい。
そのため、ボロノイ図から選手たちがカバーできる領域を計算すると、しばしば「これは適切なのか?それっぽい領域なのか?」と疑問に思うような場面が出てきます。
疑問に思う場面
次の図は、youtubeで公開されている、Emil Hansen のボロノイ図の動画の25秒時点の画像です。
この25秒時点では、左端の黄色小丸印のボールに重なった赤丸印の選手がボールを持ち、ペナルティエリア内に走り込もうとしています。
一方、相手ゴールキーパー(左端の青丸印)は、ボール保持者を阻もうと、ゴールをあけて前に出ています。
このボロノイ図は、そんな状況下で得られたものです。
この時のボロノイ図では、ペナルティエリア内の多くの面積が、ゴールキーパーがカバーできる領域となっています。
これは正しいでしょうか?
いったんボールの存在は忘れましょう。
ゴールキーパーは前に出て、ボール保持者はゴールに向かっています。
しかも両者の距離はどんどん短くなっています。
この状況で、ゴールキーパーはボール保持者に邪魔されずに、ペナルティエリアの多くの面積をカバーできるでしょうか?
この状況に限れば、ボロノイ図の使用は適切でしょうか?
私の答えはNOです。
選手たちの静止状態を仮定しているボロノイ図は、選手たちの移動と相性がよくありません。
サッカーをボロノイ図を使って分析する事は、曲線を直線で近似するというか、三角の穴に同程度の大きさの四角い物体を入れようとするというか、まぁそんな感じで「ボロノイ図の使い方がおかしい。サッカーのどの場面でも使える訳ではない」というのが私の意見です。
なお、選手たちの走っている速度を考慮して、「周囲の選手たちに邪魔されずにカバーできる領域」を計算しようとすると、境界線の計算に四苦八苦します。
この事については次の記事で説明します。
試合中にボロノイ図が使えそうな場面
サッカーの試合中には、ボロノイ図の使用が難しそうな場面がある一方で、使えそうな場面もあります。
例えば、一方のチームがペナルティエリア前で守備を固め、ボール保持チームがそれを崩そうと攻撃を仕掛ける前の、全選手の動きが停滞する瞬間です。
この時、守備側がカバーできる領域の見積もりには、ボロノイ図は有効でしょう。
選手たちの動きの停滞で言えば、セットプレー前の場面も停滞しますが、セットプレーではそこからの変化が前提であるため、ボロノイ図の使用は適切ではないでしょう。
他にもボロノイ図が有効な場面、瞬間があるでしょうが、必要な条件は「選手たちが動いていない事、動きが停滞している事」です。
サッカー以外のスポーツで言えば、野球の守備における各選手の担当領域は、まさにボロノイ図が適切でしょう。
ボロノイ図が使えそうな事例
サッカーでボロノイ図の無制限使用は難があるとして、では現実にはどんな場合に使えそうかというと、例えば、動かない複数の基点による担当領域の割り当て、です。
この「動かない複数の基点」とは、例えば、警察署、消防署、学校、宅急便の配送所、救助隊や軍隊(自衛隊)の基地、などが挙げられます。
警察署や学校の担当地域(校区)については、地形や人口密度など、担当地域を厳密に設定するためには考慮しなければならない要素があり、これらの要素を考慮しながら修正を繰り返し、適切な地域(境界線)を決める事になるでしょう。
ボロノイ図はそのような地域の割り当ての、最初の目安として使えます。
(人口密度や地形を考慮・調整して管轄を決定するようなプログラムがあれば、調整のための繰り返し計算の初期値としてボロノイ図を使えるだろう)
一方、救助隊や軍隊(自衛隊)の航空基地など、ヘリや飛行機を使った空路移動による担当地域については、ボロノイ図をほぼそのまま使えるでしょう。
(航空救難団(Wikipedia)がまさに該当していそうですが、担当地域などの地図は見つかりませんでした。航空ファンとかJwingとか読んだこと無いし…。)
次の記事では、簡単な数値計算によって、ボロノイ図と、移動速度を考慮した「個人がカバーできる領域」を比較します。
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