主に、商品と組織の違いです。
結局、サッカークラブと一般企業では、商品と環境が違い過ぎます。
次の記事で、サッカークラブ経営と一般企業経営(会社経営)の違いを考えます。
簡単なまとめが、次の表です。
この記事での「チーム」とは、監督、コーチ陣、選手達を意味します。
一方で「クラブ」とは、チームに加えて、経営陣(フロント)、販売営業、医療スタッフ(?)など、チーム運営、試合開催に関わる全ての人々を含みます。
本記事の内容は、以下の通りです。
商品の違い
商品の感想?の違い
商品の生産過程の違い
収益を得る方法と使い途の違い
組織の違い
商品(売るもの)の違い
一般企業の商品は管理の行き届いた物質的な品物ですが、サッカークラブの扱う商品は「熱狂、興奮」など感情的なモノです。
一般企業における商品(菓子、食材、自動車、家、電化製品など)は、日常生活を豊かに便利にする事が目的です。
それぞれの商品は開発と販売(宣伝)のためにお金と時間がかかりますが、いったん商品が売れだすと、ある期間、様々な場所で売れていきます。
菓子なら何十年も作られているロングセラー商品がありますし、すぐに生産終了となる商品もあります。
車や電化製品なら、マイナーチェンジを重ねて売れていく製品もありますが、新たな技術革新によって売れなくなる製品もあります。
そして物流の発展により、日本以外にも、海外で売られている商品もあります。
一方、サッカークラブにおける商品とは、チームによって試合中に生み出される「興奮、熱狂」です。
消費者は、スタジアムの観客、TVの前の視聴者です。
1試合について言えば、得点とチームの勝利は、観客に一定の興奮を保証します。
逆に失点と敗北は、観客に「不満、寂寥感(いわゆるショボーンな感じ)」を与えます。
困ったことに、商品の質は保証されていません。
試合の内容(チームが良いサッカーを実行できたか)も、観客に満足感・不満足感を与えます。
さらに1シーズンにおける、リーグ戦の順位やカップ戦の成績は、観客により深い満足感・不満足感を与えます。
シーズンの成績が良ければ、無関心な人々の興味をひく事もできます。
逆にシーズンの成績が悪ければ、観客の人数は減少します。
今では、情報インフラの発展により、世界の多くの場所で他国のサッカーを観る事ができます。
しかし、ごく少数の世界的に有名なクラブを除けば、大多数のサッカークラブの最大の消費者層は、試合を見に来る地元の人々です。
消費者からのフィードバックの違い
一般企業の商品は、主に売上の多寡によって、その商品が満足か否か、消費者からのフィードバックが行われます。
一方、サッカークラブにおいては、チケットやグッズの売上の多寡の他に、賞賛と批判という形で直接的なフィードバックも頻繁に行われます。
これは、サッカークラブが感情的なモノを扱うためです。
一般企業の扱う商品は、購入後、消費されます。
これらの商品について、消費者は個人の嗜好にもとづいて満足・不満足の評価を与えます。
(前提として、商品の品質に問題は無いと仮定します。)
例えばお菓子の味について消費者が不満を覚えたなら、次から購入されないでしょう。
この消費者の満足不満足は売上に直結します。
そして多くの場合、これら商品についての満足不満足の情報(感情)は、販売元の一般企業にまで直接向けられる事はありません。
家や車などの高価な買い物であれば、消費者は事前に細かく調べ、あるいは試運転などして納得してから購入します。
安価な商品なら、お試し感覚で購入する事もあるでしょう。
どちらにせよ、多くの賞賛と苦情が企業に直接伝えられる事態にはなりません。
おそらく、購入した商品について賞賛と苦情を直接伝える人は、10人に1人もいないでしょう。
あるいは、不祥事(主に品質管理の失敗)が起きれば、末端のスタッフが苦情に対応し、役員達は記者会見で頭を下げます。
役員達は頭を下げると言っても、基本的には守られています。
一般購入者からの苦情(罵声)に対応する事はまずありません。(役員の人数では足りないし、他に仕事があるので)
何より、多くの苦情とはと鬱憤をぶつけたい(例、責任者出てこい)からであって、個人を特定して「○○が悪い」と悪しざまに言われる訳ではありません。
もちろん会社内部では個人の責任が問われますが、消費者が相手どるのはあくまでも会社です。
一方、サッカークラブの提供する商品(興奮、熱狂)は、個人の嗜好以前に、品質管理ができないモノです。
シーズンを通して、サポーター、スタジアムの観客、TVの視聴者が満足して、売上が伸びるかどうかは定かではありません。
大きな問題は、チームの敗北数が多くなり、売上が落ちてしまった時です。
この時、売上の落ち込みは一定のラインで止まります。(正確には、スタジアムの観客数の減少は、一定のラインで止まるあるいは緩やかになります)
これは、熱心なサポーターをはじめとして長年クラブを応援してきた観客たちがいるからです。
この人々は、クラブへの愛着ゆえにシーズンチケットを購入し、スタジアムに足を伸ばします。
しかし、代金を払って負け試合を見続ければ、当然の事ながら不満がたまります。
不満が許容量を超えてしまうと、この不満は、選手達や監督、さらには勝てないチームを作ったクラブの経営陣へと、声を大にして向けられます。
今シーズンの名古屋は、成績の悪化に伴い不満がどんどん大きくなり、試合終了後にサポーターと久米社長が話し合った事もありましたし、会議場を借りて説明会が開催されました。
この段階になると、経営陣もサポーターからの叱責をまともに受ける事になります。
説明会では、事前に冷静さを保つように注意がなされていたはずですが、それが無ければ経営陣は精神的外傷になるような罵倒を受けていたでしょう。
400人以上から名前を呼ばれて罵倒されるなど、我が身に置き換えたくはありません。
今回の名古屋の状況はまさに最悪の状況ですが、ここまでいかずとも、チームの成績が悪くなれば、選手達と監督に加えて、経営陣も負の感情をぶつけられる事になります。
これは、明らかに一般企業とは違います。
逆に成績が良ければ、選手達、監督スタッフ、経営陣は賞賛されます。
この賞賛は、お金では代える事のできないモノであり、企業で働いていてる時とは別種の充足感を与えてくれるでしょう。
商品の生産過程の違い
一般企業の商品の品質は厳しく管理されていますが、サッカークラブでは生産ライン(チーム)が不安定だったり、相手チームがいるので、商品の質は安定しません。
一般企業における商品の生産過程は、失敗作を出さないように、なるべく商品の品質が一定になるように確立、効率化された構造になっています。
ペヤングのような事件もしばしばありますが、普段私達が買い物をしても、商品に何の問題もない事がほぼ全てです。
企業は、需要と原材料があれば、品質の安定した商品をいくらでも作り出す事ができます。
一方サッカーでは、試合の結果は全く一定しません。
試合結果が一定しない理由は、当日の選手達の体調、怪我人の有無、自チームの戦術の確立具合、相手チームへの対策、そして対戦相手の存在などです。
さらに、サッカーの試合は週に1回か2回が基本であり、シーズンの開幕試合はともかく、毎試合を万全の準備で迎える事はまずありません。
直近の試合の内容と結果から、次の試合展開を予想できますが、基本的にミスの多いサッカーでは、しばしば番狂わせな展開が起きます。
また、「試合は週に1回か2回」と書きましたが、リーグ戦の試合数は一定であり、加えてトーナメント戦では、負けたら試合がありません。
つまり、商品を売る事ができる回数は多くありませんし、お客さんに良い商品を提供できなくとも(チームの調子が悪くても)、商品を売らなければなりません。
会社の都合で商品販売を打ち切る事はできません。
モータースポーツのように、企業の判断で参加・撤退する事はできません。
そして経営陣にとってサッカーを難しくしているのは、選手達の移籍、成長、加齢、監督とコーチ陣の移籍です。
このために、チームは毎年ある程度作り変える必要があります。
全ての選手達を入れ替えるような自体は、よほどの事がなければ起きませんが、毎年必ず一定数の選手達は移籍、加入します。
監督とコーチ陣の移籍はさらに重要です。
試合中に時計が止まる事がなく、選手同士の情報交換も不十分なサッカーでは、試合中に何をするかという練習の部分が非常に重要だからです。
ここを見誤る、甘い見積もりでいると、ガンバ大阪や名古屋グランパスのように、信じがたいような酷い目にあいます。
収益の考え方、得る方法の違い
会社(一般企業)では、商品が売られます。
商品開発とマイナーチェンジには、一定のコストがかかります。
そして企業は、原価と販売価格の差によって利益を得ます。
基本的な利益を上げる方法は、商品の大量販売、あるいは利益の多い高価な商品の販売です。
商品の製造販売はマニュアル化、合理化が行われ、さらなる利益の拡大が図られます。
需要が続く限り、商品を売れば売るほど、利益は増加します。
一方、サッカークラブでは、チケットとグッズの販売、そして観客やさらには一般市民への宣伝を目的にした広告料が営業収入になります。
スタジアムの席と試合数に制限がある以上、需要があっても、チケット代による収入には限界があります。
過去の優勝争いをした年や低迷した年の観客数から、チケット代収入にはある程度の幅が予想されます。
グッズ販売には個数制限がありませんが、菓子ほど安価ではないため、大量の販売は期待できません。
広告料の収入は、シーズン当初からの宣伝が通常であり、シーズン中に大きく変動するものではありません。(という理解です)
つまりサッカークラブの収入は、ある程度幅が見えていて、一般企業の商品が大ヒットした場合のような、大幅な売上と利益は見込めません。
加えて、試合における勝利、シーズン優勝(上位)が目的のサッカークラブでは、チーム(監督、コーチ陣、選手達)の人件費を高くして、有力な人々を集める事が望まれます。
一般企業では、大幅な黒字が出た際に、それが社員や株主に還元されます。
経営陣の方針にもよりますが、営利企業としては正しいあり方です。
サッカークラブでは、過去の赤字や負債の解消、チームの強化に充てられるべきでしょう。
しかし、経営陣にとって恐ろしいことに、有力な監督と選手達を集めても、チームが機能するとは限りません。
原因は、選手の怪我、人間関係の不和、そして選手がチームにフィットしない事などです。
このために、チームを編成する経営陣の役割は、クラブにとって非常に重要なものです。
組織の違い
サッカークラブを保有、あるいは子会社にしてしまうような企業は、ほぼ大企業です。
社員は千人単位から万人単位であり、役職の階層も極めて多いです。
例えば、トヨタ自動車は2012年の時点で69000人超の従業員数(単独)です。(従業員数の推移、トヨタ自動車75年史)
その構造の長大さゆえに、社員は企業に守られています。
特に(上級の)役員であれば、一般市民から直接苦情を受ける事などなく、それ以前に一般市民からはその人が何をやっているかという情報がありません。
サッカークラブは、これとは大きく異ります。
Jリーグのサッカークラブの人数は10人から50人がほとんどのようです。
♯ Jリーグチームの社員数について調べてみた(2016年更新版) (Tassiy’s Blog)
選手やチームスタッフ、試合の際のアルバイトスタッフは含めません。
構成は、いわゆるフロントを構成する社長やGMなどの役員の他に、営業職でしょうか。
試合のスケジュールは固定されていますし、最低限の社員数でもなんとかやりくりできているのでしょう。
とにかく、サッカークラブは構造が小さくて単純、機能も明確であるゆえに、誰に責任があるかは外部からも分かりやすくなっています。
一般市民には情報が届かなくても、近くで取材をしている記者にとっては、人間関係や社員の動きは分かりやすいでしょう。
つらつらと書いてみましたが、天下り社長がやらかして、チームが傾くのもうなずけるくらい、サッカークラブと一般企業は、その在り方が異なります。
よっぽどサッカーとサッカークラブを理解している人間でなければ、送り込まれても、慣れるために時間がかかるでしょう。
その間に何か失敗をすれば、企業の時よりも圧倒的に大きな反響が自分に返ってきます。
次の記事では、経営、経営者の違いについて考えます。
クリックして頂けると励みになりますm(_ _)m
0 件のコメント:
コメントを投稿