2018年6月9日土曜日

【小ネタ】確率の低いミドルシュートは避けるべきか?(「サッカーマティクス」より)

数値嫌いな人には、すいません。

日本語版「サッカーマティクス」からのネタです。


「サッカーマティクス」の344pには、ゴール周辺の3領域からのシュート成功率(つまりシュートがゴールになった割合)に関する記述があります。

『ベッティングサイトやテレビ画面に表示される...。(省略) ゴールの発生地点のモデルを作成するのは簡単だ。(省略)』
これに続く記述の中で、筆者はペナルティエリア外からのシュート成功率の低さに驚き、「これからはペナルティエリア外からシュートを撃てとは言わない」と書いています。

これについて2点、意見を述べておきます。

一つは「シュートに至るまでの時間」、もう一つは「相手チームとの駆け引き」です。

まずは筆者が計算したシュート成功率を説明します。






3領域からのシュート成功率


3領域の区分は、以下の通り。
  1. ゴールエリア内。
  2. ペナルティエリア内のゴールエリア外(長いので以下「ペナルティエリア内」)。
  3. ペナルティエリア外。

筆者は、プレミアリーグの過去シーズンのデータを使って、この3領域からのゴール数とシュート数を数え上げました。結果、シュート成功率は順に、32.2%、12.4%、3.4%、でした。


ゴールから遠ければシュート成功率は低い、これは絶対的な事実です。

個々の試合を見るともっとバラけた数字が出てくる事もありますが、ある程度サンプル数を増やせば、どうしたってこのような結果になります。

しかし、「ミドルシュートは確率が悪いからやめよう!」というのはあまりにも単純な発想です。

多分皆さんも思っているように、そんな簡単な話ではありません。



シュートに至るまでの時間


最初に考えるべきは、時間とシュート本数です。

サッカーの試合はいつまでも続くわけではなく、90分(45分+45分)です。

私の意見としては、この間にシュートを何本撃つ事が出来て、期待値がどうなるかがより適切な問題提起です。

例えば、ペナルティエリア内と、ペナルティエリア外の成功率は4倍程度の違いです。

もし、実際の試合で、ペナルティエリアのシュートが、ペナルティエリアのシュートよりも4倍以上「撃ちやすい」なら、ペナルティエリアのシュートを選択するべきです。

これは定量的に解析すべきネタですが、データがありませんので推論でご容赦を。


ペナルティエリア外からのシュートの利点は、相手陣内に侵入後(あるいはアタッキングサードに侵入後)、時間をかけずに多くのシュートを撃てる点です。

相手チームの守備のプレッシャーがより弱い段階でシュートを撃てる点です。

一方、ペナルティエリア内にボールを運ぶためには、ドリブル突破や相手守備を崩すためのボール回しなど、一定の時間がかかります。

一方のサイドで失敗すれば、立て直して逆サイドで仕掛け直す事もあります。

ゴールに近い守備を崩そうとすれば、ボールを奪われる機会も増えるでしょう。

つまり、ペナルティエリア内のシュートは、ペナルティエリア外のシュートよりも時間がかかるため、シュート本数が少ないだろうと予想できます。


ゴールエリア内のシュートも同様です。

ゴールエリア内のシュートは、ゴールへの近さから考えて成功率30%強も納得ですが、シュート自体に時間がかかります。

なんと言ってもGKがいますので、シュート自体が簡単ではありません。

このシュートも、ペナルティエリア外からシュートを撃つよりも長く時間がかかり、シュート本数は少ないでしょう。


もし定量的に各シュートにかかる時間を計算しようとするなら、アタッキングサード侵入後、以下のプレーにかかった平均時間が必要になります。


  1. クロスを上げたプレー。
  2. ペナルティエリア内への侵入(~オフサイドライン突破?)を試みたプレー。
  3. ペナルティエリア外からのシュート(ペナルティエリア内侵入無し)。


1と2については、さらにシュートできた割合を考慮して、「1試合に何本撃てる」という事が分かります。

もちろん、アタッキングサードに運ぶまでの時間もかかります。(これは平均時間をとってやればよいでしょう。)


単に、期待値から攻撃の選択肢を選ぶならこれで十分ですが、実際のプレーではどうしても駆け引きの要素を排除できません。

「いずれかの選択肢に重点を置く」なら理解できますが、「いずれかの選択肢だけを選ぶ、排除する」事は現実的ではありません。



相手チームとの駆け引き


つまらない話になりますが、一方のチームは攻撃し、もう一方のチームは守備をします。

この攻守でどうやってゴールを奪うか、守るか、個々の選手たちの駆け引きが、チーム同士の駆け引きとなっています。


もし、サッカーの試合で両チームが「ペナルティエリア外からシュートを撃つことをやめる」なら、両チームは互いにペナルティエリア内での守備を固めるでしょう。

その結果、ペナルティエリア内、ゴールエリア内のシュート成功率が下がる事は容易に想像がつきます。

しかし、現実のサッカーではそのような制限はありません。

もし守備側のチームがペナルティエリア内の守備を固めているのなら、攻撃側のチームはペナルティエリア外から相手に邪魔される事無く、好きなだけシュートを撃つ事ができます。

ペナルティエリア内の守備は邪魔ではありますが、これはGKのブラインドにもなります。

ペナルティエリア外から好きにシュートを撃てる事は、攻撃の大きな利点です。

これを妨害するためには、守備側のチームはペナルティエリア外に出る事が必要になります。

すると今度は、ペナルティエリア内が空きます。

そして攻守は複数の選択肢を選び続け、駆け引きをし続ける事になります。




このような攻守の駆け引きは、サッカーの醍醐味の一つです。

いずれかのシュートの選択肢に重点を置く事はあるでしょう。

しかし、シュートの選択肢を排除してしまっては、相手チームは守備がしやすくなります。

もちろん筆者がこの単純な事実を知らないはずは無いので、あの記述は「確率を強調するためのもの」だろうと推測します。



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