2017年1月19日木曜日

【論文紹介】 トラッキングの計測結果は正しいのか?

紹介する論文は、「Validation of Prozone (R): A new video-based performance analysis system (Valter et al., IJPAS, 2006)」です。

Research Gateからも取得できるようです。Validation of Prozone (R): A new ...

この論文では、トラッキングシステムで計測された動き(走り)の速度を、独立して計測された速度と比較しています。

ちょっと古いですが、前回紹介した論文で参照されていました。

この論文には、トラッキングシステムを開発?したProzone社が協力しています。

独立した計測方法とは、一定距離に設置された光センサー(タイミングゲート)による時間計測(速度計測)です。

本文では、「良好な結果(最も良い結果は相関係数0.999)が得られた」とされていますが、一部疑問が残ります。





計測方法をまとめると、
  • トラッキングについては固定した8台のカメラによってフィールド全面をカバーする。加えて確認用の全体撮影カメラ。(Fig. 2)
  • 計測は0.1秒間隔。
  • 2つのフィールドで計測した。(Old TraffordとReebook Stadium)
  • 計測に参加したのは6人の成人男性(ボランティア)。
  • タイミングゲートは、Newtest 300 Series Power Timer を採用。
  • 走っている間にトラッキングデータから得られた平均速度を、タイミングゲートの時間計測から得られた速度を比較。


計測する運動(走り)をまとめると。
  • 走るコースは4種類。直線60m、途中で斜め前方に方向転換する50m、直線15m、途中で左右に直角に方向転換する20m。
  • 60mと50mでは、7, 11, 14, 19, 23 km/hのペース走。
  • 音によるペース設定は Ergo Tester, by Globus を使用。(そういう装置があるらしい)
  • 15mと20mでは全力疾走。
  • 複数カメラによるトラッキングの有効性を示すために、走るコースはフィールドのあちこちに設定。(Fig. 1)


比較結果を解析する際には、単純な相関係数だけでなく、高等?な統計解析もしているようです。(詳しくないのでさっぱりです)。

比較の結果は以下のようになりました。


  • 60m、50m、15mで比較した場合相関係数は0.99以上。20mでは0.95以上。他の統計解析の数値も良い。
  • 60mと50mの比較結果は、ほぼ直線状。フィッティングの結果の傾きは1近い。(理想的な結果)
  • 15mと20mの比較結果は、バラツキがある。フィッティングの傾きは0.77と1.10。(バラツキは何故?)


↓60mの比較結果の図です。


↓15mの比較結果の図です。


赤線は、原点を通る傾き1の直線です。トラッキングの速度に比べて、タイミングゲートの速度の方が全体的に速い事が分かります。

以下は、個人的感想です。


  • 本文では、15mと20mの比較結果のバラツキに触れられていない。バラツキの理由が良く分からない。
  • 加えて15mの比較結果では、原点を通る傾き1の直線から全体的にずれている。
  • ただ、0.5m/s 以下の差なので、「改善を要する」程度の成績に思える。
  • 今回の結果からは、スプリント(全力疾走)での速度測定は若干不安定。

  • 注意しておきたいのは、この論文は10年前の簡易的な観測結果である。
  • この論文は0.1秒の時間間隔でトラッキングデータをとっているが、Jリーグでは0.04秒の時間間隔である。
  • この論文では簡易的に8台のカメラを使っているが、(当時でさえ)本来は50台との事。

スプリントの際の速度計測にバラツキがあって、それを議論していないのは不満です。ペース走はあんなに綺麗に一致しているのに…。

位置測定のプログラム関係でしょうから、企業秘密も絡んでいるのでしょうか?

あと、この論文では基本的にフィールド上の走り、つまり2次元的な動きだけを調べていますが、ジャンプで空中にいる際の位置測定の精度も知りたいところです。



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