2017年1月26日木曜日

【論文紹介】 ポジション別の高強度運動の違い (EPLの2003から2006までの3シーズン)

紹介する論文は、「Analysis of High Intensity Activity in Premier League Soccer (Di Salvo et al., 2009, Int. J. Sports Med.)」です。

検索するとResearchGateでリプリントが読めます。

この論文では、English Premier League (EPL) における High Intensity Activity(いわゆる高強度運動)についてポジションとの関係を主に調べています。

この論文のHigh Intensity Activityとは、移動速度で言えば19.8 km/h以上と定義されます。

以前紹介した論文「The Evolution of Physical and Technical Performance Parameters in the English Premier League (Barnes et al., 2014, Int. J. Sports Med)」では、7シーズンに渡るサッカーの各要素の変化が主題でしたが、この論文ではポジション別のHigh Intensity Activityの違いが主題になっています。





本文をまとめてもかなり長く、理解しにくい箇所もあるので、概要(主要な結果)を紹介して、その後にデータと結果を紹介します。

以下、頑張って書きましたが、読まなくてもいいです。ResearchGateでリプリントの図表を見て下さい。略語の意味は、以下の文かリプリントで拾って下さい。本文を読みましたが、読みにくい英文です。Discussionは読んでいません。


概要は次のとおりです。
  • 19.8 km/h以上で定義されるHigh Intetnsity Runningによる距離は、ポジションに依存する。
  • サイドのMF(文中のwide midfield)が最も長く1049±106m、センターバック(文中のcentral defenders)が最も短く681±128m。
  • High Intetnsity Runningによる距離は、チームの最終成績にも依存しており、下位5チームの平均距離が919±128m、中位10チームが917±143mに対して、上位5チームの距離は885±113mである。
  • 結果、上位チームほど距離が短くなる(しかし分散幅は大きい)
  • High Intetnsity Runningの距離とスプリントの距離は、後半に減少し、特にFWとサイドのMFで低下する。
  • 結論として、試合中のHigh Intensity Activityは、ポジションと試合中のそれまでのプレーに依存し、さらにチームの成功に依存する。
  • High Intensity Activityに代表される肉体的なパフォーマンスよりも、チームの戦術的技術的な要素こそが、勝利をおさめるためにより重要かもしれない。


以下、データについてです。

  • 2003-2004(以下S1), 2004-2005(S2), 2005-2006(S3)の3シーズン。
  • 563人の選手、それぞれは1-57試合に90分間出場、中央値は8試合。
  • 合計7355サンプル。

  • データはProzoneによるトラッキングデータ。
  • 測定したポジションは5つ、
  • Central defender (日本で言う所のセンターバック、サンプル1840)
  • Wide defender (サイドバック、サンプル1648)
  • Central midfield (サンプル1725)
  • Wide midfield (サイドのミッドフィルダー、サンプル1006)
  • Attacker (フォワード、サンプル1136)。
  • チームの成功による違いを見るため、国内リーグの最終成績上位5チーム(サンプル1876)、中位10チーム(サンプル3739)、下位5チーム(サンプル1740)に分ける。
  • シーズンの影響を調べるために3シーズンを調べる。サンプル数はS1が2266、S2が3656、S3が1433。
  • 試合の前半と後半の運動量の違いも調べる。

  • 表題のHigh intensity activity については以下の2つの変数によって調べる。
  • 1.Total high intensity running (THIR) distance (0.5秒間の平均速度が 19.8 km/h 以上)
  • 2. Total sprint distance (TSD) (0.5秒間の平均速度が 25.2 km/h 以上).
  • 1のTHIRについては、チームがボールを保持している場合(HIRP)と保持していない場合(HIRWP)に分ける。

  • スプリントについてはその距離も調べる。(0-5 m, 5.1-10 m, 10.1-15 m, 15.1-20 m and > 20 m
  • スプリントは、explosibeとleadingにも分類する。
  • explosiveは、極端な加速。具体的には19.8km以下から加速して19.8-25.2の速度帯を0.5秒以下で抜ける。
  • leadingは緩やかな加速。
  • トラッキングデータは0.1秒間隔で取得したものを、0.5秒間隔で平均化した値を使用。


以下、結果です。

主要な結果は、以下の表1と表2です。



表1、ポジション別のスプリント距離など。A4サイズに合わせた表なので、スマホでは見にくいです。PCで見る事をお勧めします。

概要に書いてあるように、THIRを見ると、センターバックの距離が最も短く(681m)、サイドのMF
の距離が最も長く(1049m)なっています。

一方、スプリント距離(TSD)を見ると、センターバックの距離が最も短く(167m)、長い方ではFWとサイドのMF(262mと260m)になりました。

ポゼッション時(HIRP)と非ポゼッション時(HIRWP)の距離の違いも興味深いです。ポゼッション時には、FWの移動距離が最も長く、センターバックの距離が最も短くなっています。ポゼッション=攻撃と考えればこれは当然です。

非ポゼッション時にはその逆で、FWの移動距離が最も短く、センターバックの距離が最も長くなっています。ただ、非ポゼッション時のFWの移動距離は、ポゼッション時のセンターバックの移動距離の2倍弱となっており、近年のサッカーの流れであるFWから始まる守備という傾向が明確になっています。

最後、どのポジションにおいても、爆発的なスプリントは約3割、緩やかに始まるスプリントは約7割です。



表2、チームの最終成績別のスプリント距離など。

THIRの距離を見ると、上位5チームが885mに対し、中位10チームと下位5チームは918m程度です。成績の良いチームは動く距離が(若干)短く、高強度の走りがそのまま成績につながっていない事が分かります。

TSD(スプリントの距離)は、しかしながら、上位5チームが短いものの、同程度の距離230m前後です。

ポゼッション時の距離(HIRP)は特に差がありませんが、非ポゼッション時の距離(HIRWP)は、上位5チームの方が、他よりも1割ほど短くなっています。上位のチームの非ポゼッション時の距離が短いという事は、守備をする時間が少ない、あるいは守備で無理に走る必要がなく、良い守備組織ができているという事なのかもしれません。

最後、爆発的なスプリントと緩やかに始まるスプリントの割合は、ポジションと同じく3割と7割になっています。ポジションとチームの最終成績にほぼ関係無い傾向は面白いですね。なぜこうなっているのか?


他に Figs.1, 2, 3 の説明です。

Fig.1 は、ポジション別のスプリント距離の違いを示したグラフです。結果として、いづれかのポジションで、特にどの距離のスプリントの回数が多いという傾向はありませんでした。どのポジションでも似たような分布傾向でした。

Fig.2 は、ポジション別のTHIRの距離について、チーム成績による違いを示しています。結果として、唯一サイドのMFでのみ、目立った違いがあり、他はチームの成績による目立った差はありませんでした。サイドのMFでは、上位5チームのTHIRの距離が、他のチームより1割近く短くなりました。

Fig.3 は、ポジション別かつ前後半でのTHIRとTSDを示しています。結果、フォワードとサイドのMFとDFは後半にそれぞれの距離が減少しましたが、センターバックと中央のMFについては、ほぼ距離が変わらないあるいは後半に距離が増加するという結果になりました。

年変化では、スプリント回数が2003-04シーズンの30回から2005-06シーズンには35回に増えており、これは主に0-5mの回数が5回増えたためです。




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