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この記事の作図に使用したノートブックは、td_007b_4pub.jpynb。
この記事では、オフ・ザ・ボールの指標案について紹介したい。
ここでは、「パスを受けるためのオフ・ザ・ボールの動き」を、選手の移動速度、ボールとの距離、相手選手たちとの距離から検出する事を試みた。
記事の内容は、次の通り。
- トラッキングデータによる解析の必要性
- 先行研究
- オフ・ザ・ボールの動きの指標案
- 動画
トラッキングデータによる解析の必要性
本記事では、「攻撃時のパスを受けるためのオフ・ザ・ボールの動き」に限定して話を進める。
本来、「オフ・ザ・ボールの動き」の最も広範な定義は、「ボール保持者とそれに1対1で対峙する守備側の選手以外の、全ての選手の動き」となるだろう。
ただこれはちょっと漠然としすぎており、さらに何かを定義・限定・単純化しないと研究は進まないので、本記事はパスを受けるための動きに限定する。
トラッキングデータでオフ・ザ・ボールの動きを解析する理由(利点)は2点ある。
一つは全体像を漏れ無く解析できる事、もう一つは客観的に評価できる事である。
今もそうだと思うが、オフ・ザ・ボールの動きを含めたプレーの主要な評価方法は、監督コーチが試合中の選手たちを見る事である。
しかし、監督とコーチ達の見聞による評価には、次の3点の制限がある。
- 選手と同程度の高さで見ていると、視野が限られ全選手の把握は困難。
- 評価は、監督コーチ陣の主観(好み)による。
- その場で見るだけでは、プレーを正確に思い返す事が困難。
録画機器(ビデオカメラやスマホ)の発達によって3番目の制限はずいぶん解消されたが、トラッキングデータの解析(数値による指標化)はこれら3つの制限を全て解消できる。(ただ個人の細かなフェイントの動きは評価できない)
従って、オフ・ザ・ボールの動きの指標化を考える価値は十二分にある。
先行研究
google scholar でオフ・ザ・ボール(の指標)についての論文検索をしてみたが、どうもめぼしいものが見当たらなかった。
トラッキングデータの実用化・拡散がここ10年以内である事、Twitterなどを見ても論文化されてない指標がいくらでもある事(研究主体はクラブだったり企業だったり)を考えると、めぼしい論文が無くてもおかしくはないのだろう。
ただここで言っておきたい事は、説明が詳細にされいない指標、確かめる事ができない指標について、私は使うのが怖い。
例えば、Football LABで公開されている走行距離やスプリント回数などは、そのままで理解できるので問題ない。
一方、Chance Building Point のような複雑な指標は概要が書いてあるだけであり、そこは残念。
計算例も知りたいし、「1」が何を意味するのか、規格化(の説明が)されてない指標は、使うのが怖い。
トラッキングデータの観測精度についての論文は読んだ事があるし、DEBS 2013のようにトラッキングデータや動画を即座に見やすくするという方向での研究や論文はあるようだが、プレーの評価方法となると、それが各社各者各団体の売りなのか、あまり詳細は出てこない。
指標案
先に述べたように、今回のオフ・ザ・ボールの指標の主な目的は、「攻撃時にパスを受けるための動きを評価する事」である。
今回の指標案では、3つのパラメーターを考えた。
- ボールとの距離の増減。
- 相手選手達との距離の減少。
- 一定以上の選手の移動速度。
議論の出発点として、パスを受けるための動きにどんなものがあるのか思い浮かべたところ、「ボール保持者に向かってパスを受けるために移動する」、「相手DF裏のスペースに走り込む」などが思い浮かんだ。
これらの動きがパスを受けるための動きの全てとは限らないが、まずはこれらの動きを仮定の出発点とした。
ここに挙げた2例は、「ボールに近づく、離れる」という、ボールを中心にした視点からは真逆の方向性だが、パスを受ける点では一致している。
これらの「ボールに近づく、離れる」動きを評価するためには、ボールとの距離それ自体よりも、ボールとの距離の増減が適切である。
「ボールに近づく、離れる」事は重要だが、相手選手たちの密集地帯に移動してしまっては、パスを受けて次のプレーをする事は困難になる。
従ってスペースに移動する事も、ここで考えるオフ・ザ・ボールの動きの必要条件である。(こっちが肝でしょ)
このスペースへの移動は、次の量「 L_i 」の増減によって表現した。
L_i = Sum_j (1 / l_i,j^2)
「 i 」はある選手のID、「 j 」は相手選手たちのID、「 l_i,j 」はある選手とある相手選手との距離(単位は m)、「^2」は二乗、「Sum」は積算、の意味である。
この式では、相手選手の一人が1mにいれば値は1となり、距離が離れるに従って急速に減少する。
「 L_i 」の減少は、スペースに向けての移動(相手選手達から離れる移動)を示す。
なぜこの定義(式)なのかと聞かれても、まぁとりあえず、である。
二乗については、スペースの判定の際に遠くにいる選手たちの影響を弱めるためである。(三乗以上でも良いだろうけど、ゴニョゴニョ)
最後に、選手たちが一定以上の速度で移動している事も、オフ・ザ・ボールの動きの要件に加えた。
これは、仮にある選手が動かなくても、ボールと相手選手たちの動きによっては、上の二つのパラメータが変化するからである。(実際にスペースに移動できるならパスが可能になる訳だが、今求めているのはそうじゃない。)
ここでは、移動速度が1.5m/s以上とした。(1m/s = 3.6km/sは、通常の歩く程度の速さ)
これらのパラメータを使ってオフ・ザ・ボールの動きを検出する際は、継続時間が0.5秒以上、そしてもちろん自チームがボールを保持している期間に始まった動き、とした。
この移動速度と継続時間については、ちょっとパラメータを変えた検出も行ってみた。
これらの値を変化させれば検出される動きも当然変化するが、どこまでの動きを拾うべきか、閾値の妥当性についてはまだ明確な結論を得ていない。
以下は、team Aの Roman Hartleb 選手(左足のIDが 23)の試合開始後1分間の各パラメータの変化である。
上のパネルが L_i 、中央のパネルはボールとの距離、下のパネルが選手の移動速度である。
紫の帯は、ボールから離れるオフ・ザ・ボールの動きが検出された時間帯である。(ここには無いが、黄色の帯はボールに近づく動き)
上のパネルにおいて、赤太線は team A のボール保持、青太線は team B のボール保持、黒太線は中断、を表している。
下のパネルにおいて、青線は左足と右足の平均値から得た移動速度を表しており、赤線は1秒間の平均速度を表している。(位置センサーは両足についている)
この赤線の平均移動速度に対して閾値を適用した。
動画
次の動画は、前半の五分間についてのもので、検出されたオフ・ザ・ボールの動きが表示されている。
薄赤色は teamA の選手たち、薄青色は teamB の選手たち、薄緑色は審判、少し小さい黒丸はボールである。
選手たちのシンボルを囲む黄色と紫色の輪は、今回検出したボールに向かう動き、ボールから離れる動きを示している。
結論を言ってしまえば、定義した動きは検出できているようだが、あちらこちらで本来の狙いとは違う動きも検出されている。
例えば、team A の選手が相手DF裏にパスを出すと、味方のDF陣がボールから離れたオフ・ザ・ボールの動きとして検出されたり(31秒から34秒の間)と、まぁ問題点はある。
ただ見ていてそれなりに面白そうではある。
なお、今回の閾値で検出されたオフ・ザ・ボールの動きの合計時間は次の通りである。(左からチームと左足のID、ボールに近づく動き、ボールから離れる動き、合計。)
A13 3.2 31.4 34.6
A47 63.5 129.4 192.9
A49 39.1 110.8 149.9
A19 45.3 104.4 149.7
A53 52.7 111.6 164.3
A23 127.4 190.5 317.9
A57 63.2 92.1 155.3
A59 87.9 76.9 164.8
B61 3.7 47.5 51.2
B63 46.9 122.9 169.8
B65 57.4 151.7 209.1
B67 90.8 127.2 218.0
B69 53.7 133.4 187.1
B71 41.7 129.4 171.1
B73 75.2 107.3 182.5
B75 87.6 81.9 169.5
チームAのパス本数が多かったこの試合、検出されたオフ・ザ・ボールの動きとしては、チームAの#23の選手(2-3-2の中央)の動きがよく検出されている。
ボールに近づく動きについては両チーム同程度だが、ボールから離れる動きについてはチームBの時間が全体的に長い。
この動きがパスにつながらず、相手チームにスペースを与える事になったのだろうか?
試してみたが、ちょっと滑らかでない感じ。
スマホは、すいません、調べてください。
十字キーで滑らかにコマ送り戻しができるお気に入りは、Appleのquick time player だったが、よく見たらすでに保守適用外だった模様。
動画の作成についてはトラブル解決に時間を要した。
google colab というより、python での多数枚の画像作成にはメモリリークの問題があるらしい。
こちらの記事にまとめた、「Python、画像作成、繰り返し(多数回)、、、(情報とは)」
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20190423、肝心の L_i の式を間違えてました。
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